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盛岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)7号 判決

盛岡市山王町一〇番五号

原告

小野寺和歌子

右訴訟代理人弁護士

菅原一郎

菅原瞳

同市本町通三丁目八番二七号

被告

盛岡税務署長

石郷岡裕

右指定代理人

須藤哲郎

大森勇一

吉越滿男

石川智也

西垣稔丸

守木英男

高橋宏

鐙利雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者間に争いのない課税経過事実と当事者双方の申立

一  原告が昭和三九年度分ないし四一年度分の所得税につき各納税期に被告に対し次の表の確定申告欄記載のとおり確定申告したところ、被告は昭和四二年一一月二〇日付をもって同表更正処分等欄記載のとおり、右各年度の所得金額及び所得税額の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした。

そこで原告はこれに対し被告に異議の申立をなし、仙台国税局長に審査請求をしたが、いずれも棄却された。

〈省略〉

右の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は「被告のなした右更正処分につき確定申告の総所得金額税額を超える部分、および過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めている。

第二被告の主張

一  被告は原告の確定申告書記載の所得金額に過少申告の疑いを持ったので、所属職員を前後二回にわたって調査のため原告方に派遣したが、原告は調査を拒否した。そこで被告はやむなく自ら調査したところに従い、所得税法一五六条の推計により原告の所得金額を推計し、更正処分をしたのであり、その経緯の詳細は別紙要約調書第三の二(被告の主張)2(一)(二)に記載のとおり(但し、同調書九丁裏の(2)の「(c)」を「(a)」と、計算表(3)の二行目の「(3)」を「(2)」と各訂正する)である。

右被告の右調査及び処分が、権限を濫用してなされた緯法な処分であるとの原告の主張は争う。またそもそも課税処分取消の訴における訴訟物は係争年度における租税債務の存否すなわち課税庁の認定した課税標準等および税額が正当であるかいなかであって、被告において原告の調査を必要とした判断の経緯、質問検査権の行使の適否のごときは訴訟の対象とはならない。

二  右被告の調査によれば原告の本件各年分の所得の内訳は次のとおりである。

〈省略〉

第三原告の主張

一  本件処分は被告が原告の所属する民主商工会の破壊を狙って本来その必要がないのにあえて調査を行ない、権限を濫用してなした違法の処分である。その詳細は別添要約調書第二項二1、2に記載のとおり。

二  被告の原告の所得の認定は過大であり、争う。

但し、被告の主張二の所得の内訳表のうち、

番号1………認める。

番号2………総額が大体被告主張どおりであることは認めるが、被告が右売上を小売、卸売、中卸売等に分けて推計しているのは根拠がなく、争う。

番号3………争う。

番号4………認める。

番号5………認めるが、経費に該当する借入金利子はもっと多額である。少なくも別添要約調書第四項二1に明細主張している、昭和三九年分四三万七五円、昭和四〇年分五四万九、三〇二円、昭和四一年分八五万一、五六一円は下らない。

番号6………争う。

番号7………争う。

番号8………認める。

番号9………争う。

第四証拠

一  原告

1  甲第一ないし四号証、第六ないし一一号証、第一二及び一三号証の各一、二、第一四ないし一六号証、第一七及び一八号証の各一、二

2  証人小野寺正三、同高橋定及び同大黒幹雄北日本相互銀行材木町支店(二回)、盛岡信用金庫厨川支店、徳陽相互銀行盛岡支店及び国民金融公庫盛岡支店に対する調査嘱託の各結果

3  乙第一八号証の二、三、第二〇、二二及び二四号証の各二ないし四、第二五号証の二ないし五、第二七、二九及び三〇号証の各二、第三二号証の二、三、第三四及び三六ないし三八号証の各二、第四〇号証の二、三、四二号証の二、第四四号証の二ないし五、第四六及び四八号証の各二、三、第五〇号証の二、第五二号証の二ないし四、第五八号証の一、二の成立は、いずれも知らない。その余の乙号各証の成立は、いずれも認める。(なお、乙第五七号証については、原本の存在についても認める。)

二  被告

1  乙第一ないし一七号証、第一八号証の一ないし三、第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三号証、第二四号証の一ないし四、第二五号証の一ないし五、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九及び三〇号証の各一、二、第三一号証、第三二号証の一ないし三、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証、第三六ないし三八号証の各一、二、第三九号証、第四〇号証の一ないし三、第四一号証、第四二号証の一二、第四三号証、第四四号証の一ないし五、第四五号証、第四六号証の一ないし三、第四七号証、第四八号証の一ないし三、第四九号証、第五〇号証の一、二、第五一号証、第五二号証の一ないし四、第五三ないし五七号証、第五八号証の一、二

2  証人前沢慶一、同杉沢七郎及び同高橋秀夫

3  甲第八ないし一一号証、第一二及び一三号証の各一、二、第一五及び一六号証、第一七及び一八号証の各一、二の成立は、いずれも知らない。その余の甲号各証の成立は、いずれも認める。

理由

一  原告の昭和三九ないし四一年の所得の各確定申告に対し被告が調査推計の結果これを更正する処分及び過少申告加算税を賦課する処分をしたことは当事者間に争いがない。

原告はまず被告の右調査、処分が権限を濫用してなされた違法のものである旨主張するが、本件全証拠によるも未だこれを首肯しえない。成程、原告が盛岡民商の会員で原告と同時に十人前後の盛岡民商の会員が被告の調査を受けていることその他本件証拠にあらわれた諸事情からすると、原告が民商の会員であったことが被告の本件調査と必ずしも無縁でなかったのではないかとの疑いはいちおうこれを抱きえないでもないけれども、被告がたとえば徴税目的の枠を超え民商そのものの壊滅を期するといった恣意から、原告ら民商会員の調査に及んだ証拠はない。たまたま或る時期に特定の集団に属するものに調査を受ける者が多数あったとしても、そのことから直ちに被告の必要性判断の恣意を論結し、調査、処分の違法をいうことが出来ないのはいうまでもない。また原告は被告の質問検査権の行使の違法をいうけれども、採用し難い。成立に争いがない乙第二、第三号証によれば昭和四一年度分の原告の申告所得額が昭和四〇年度分のそれよりも少いこと、証人前沢慶一の証言によれば、そうした点に被告は原告の申告が過少申告ではないかとの疑いを持ち昭和四二年六月一三日と同月一六日の二回職員二名(但しうち一名は仙台国税局の国税実査官)を調査のため原告方に派遣したが、原告の夫との間に被告主張(別添要約調書第三の二2(一))のようなやりとりがあって二度とも調査に応じてもらうことができなかったこと、同証人はその際調査に赴いた者の一人であるがその場の空気から原告から調査に協力してもらうことはとうてい期待できないと判断したというのであるが、証人小野寺正三の証言よりするもその前後に民商関係者に多数の被調査者が出ていたためにいわれなき調査であるとして抗議の姿勢に出ていたことが知られるのであり、右判断に達したとしても無理からぬ情況にあったと認められること、証人杉沢七郎の証言によれば、その後昭和四二年一〇月一〇日ごろ被告が原告に被告方に出署して説明してほしい旨依頼したときにも結局原告はこれに応じなかったことなどの諸事実が認められ、こうした経過からすると被告がいわゆる推計課税の方法で原告の所得金額を認定し本件処分をしたのはいちおうこれをやむを得ないこととして是認することができる。

二  そこで次に被告のした原告の所得の推計が正当なものであるかどうかを検討する。

1  原告が肩書住所地に店舗を有し、ゴム靴及びゴム、ビニール製品の小売販売を業として営むものであることは当事者間に争いがない。

2  被告は仕入先調査により原告の昭和三九年ないし同四一年の各年分の仕入金額が金五三六万二、一七三円、金六三八万七、〇三六円、金八九一万八、六八〇円であることをつかんだが、右各年度の売上原価がそれぞれこれと同額であることは原告の自認するところである。売上金額もその総額においては特に争いがない。

3  ただこれだけでは利潤(算出所得金額)がわからないのでこれを推計すべきことになるが、被告のとった推計方法は別紙要約調書(第三項二2(二))記載のとおりである(証人杉沢七郎、同高橋秀夫の各証言、弁論の全趣旨によって成立を認める乙第五八号証の二)。これは原告の業態の把握が穏当で、従事人員一人当りの平均売上金額、平均差益率、平均算出所得率等の算出の基礎になった類似同業者の選定が恣意的なものでなく適正である限り合理性のあるものとして是認することができる。よって右二点を見るに

(1)  証人小野寺正三、同杉沢七郎の各証言によれば、原告は昭和三九年から同四一年までの間、肩書住所に店舗を持ち夫婦二人きりで主にくつ製品の小売りを営んでいたが、店頭販売一色ではなく、岩大生協等生活協同組合や官庁の共済組合等への値引販売、日通等民間会社への値引販売、滝沢村佐々木清七への委託販売等のほか車を使っての外小売も一部やっていたことが認められる。しかし、これらのものの原告の営業全体に対する比重等の詳細は証人小野寺正三の大体六割が普通の小売で他が岩大生協等への販売だ、これら生協等への販売はもうけが少くせいぜい七、八パーセントか多くても一〇パーセントどまりだといった程度の大まかな証言があるくらいで、証拠上これを明らかにしえない。値引販売の場合の値引巾が各取引先共一律なのか違うのか、どう違うのか等も不明である。

そこで被告が原告の店頭販売の従事員を一・五人として(二人とならないのは夫が店頭販売と外小売をかけもっているからである)類似同業(小売)者の従業員一人当りの平均売上金額を尺度にして店頭小売分を推計する、値引販売分には値引の大きいものも小さいものもあるとみてこれを便宜二分し、一方を卸売に準じて扱かい他を卸売と小売の中間的に扱う、右卸売分と中卸売分と外小売分の三つで原告の店頭小売分以外の分を三分するといった手法で原告の所得を推計したのは右認定の原告の業態からみて相当でありいちおうの合理性を有し正当である。

(2)  成立に争いがない乙第一七号証、同第一八号証の一、同第一九号証、同第二〇号証の一、同第二一号証、同第二二号証の一、同第二三号証、同第二四、第二五号証の各一、同第二六号証、同第二七号証の一、同第二八号証、同第二九、第三〇号証の各一、同第三一号証、同第三二号証の一、同第三三号証、同第三四号証の一、同第三五号証、同第三六ないし第三八号証の各一、同第三九号証、同第四〇号証の一、同第四一号証、同第四二号証の一、弁論の全趣旨によって真正に成立したと認める乙第一八号証の二、三、同第二〇、第二二、第二四号証の各二ないし四、同第二五号証の二ないし五、同第二七号証の二、同第二九、第三〇号証の各二、同第三二号証の二、三、同第三四、第三六ないし第三八号証の各二、同第四〇号証の二、三、同第四二号証の二、証人杉沢七郎、同高橋秀夫の各証言によれば、被告は類似同業者を抽出するにあたり、原告と条件の全く同一な同業者が他にないため、くつ販売業者で原告と営業規模、立地条件等が類似する者を盛岡、花巻、山形、大曲、横手、宮古、古川、八戸、秋田南の各税務署管内の青色申告者の中から選定することにし、原告の業態を、ゴム靴及びゴム製品の小売、卸、中間卸を兼営している、店舗は、盛岡駅の北方、東北線一駅をへだてた国道四号線ぞい、厨川駅前通り普通商業地域にある、従事員は本人と妻の二人で仕入額は昭和三九年分五三六万二、〇〇〇円、昭和四〇年分六三八万七、〇〇〇円、昭和四一年分八九一万八、〇〇〇円位、顧客は店舗附近の新興住宅地居住者と厨川駅前通り居住者を主体とするものとして特徴ずけ、それに似た同業者(卸売又は小売業者、又はその兼業者)を数例選び、卸売、小売別に、その同年分の売上金額、差益金額、算出所得金額を調査したところ、別添要約調書添付の別表(一)のとおりであったこと、右の数字は関係各税務署保管の青色申告決算書にもとづいているため、資料の正確性に欠けるところのないものであることが認められる。そして本件証拠によって認められる原告の営業環境、規模等もほぼ右被告の把握どおりで誤りないことが窺われるから、被告の類似同業者の抽出はその選定が右基準にそってなされている限り正当である。

また成立に争いのない乙第四三号証、同第四四号証の一、同第四五号証、同第四六号証の一、同第四七号証、同第四八号証の一、同第四九号証、同第五〇号証の一、同第五一号証、同第五二号証の一、弁論の全趣旨から真正に成立したと認める乙第四四号証の二ないし五、同第四六、第四八号証の各二、三、同第五〇号証の二、同第五二号証の二ないし四によれば、被告が右抽出にかかる小売業者に別途事業従事者の数とその従事状況を各所轄税務署に照会して調査したところ、別添要約調書添付の別表(二)のように換算しうる報告のあったことが知られる。

右調査にかかる同業者の売上金額、差益金額、算出所得金額、従事人員数等を基礎に、従事人員一人当りの平均売上金額、同業者の平均差益率、平均算出所得率等を算出し、平均差益率から平均原価率を求め、これらを使って被告の手法に従い原告の算出所得金額を推計していくと別添要約調書第三項二2(二)(3)に記載されているような数値が得られることが計算上明らかである。

以上被告の推計はその方法、計算共正当である。

証人小野寺正三は当法廷で手形決済日がくると他から借金して期日を延期してもらうなど本件係争年度を通じ原告の内情が苦しかったことを述べ、原告が甲第八ないし第一一号証、同第一二、第一三号証の各一、二、同第一五、第一六号証の帳簿類を提出したのもこの趣旨と解されるが、これらも未だ右推計をくつがえすに足りない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4  特別経費として被告主張の金額を計上すべきことには当事者間に争いがない。この分の明細は別添要約調書第三項二の2(二)(4)(a)、(b)に記載のとおりである。これも原告の明かに争わないところと解せられる。

しかし、原告は経費に計上すべき支払利子は右(b)にとどまらず、北日本相互銀行材木町支店に対する支払額はもっと多額であり外に個人からの借金に対する支払利子があると主張するので検討するに、

(1)  成立に争いのない乙第五三ないし五六号証によれば、昭和三九年ないし昭和四一年間に原告と右銀行(材木町支店)間には原告名義の取引はなく、夫正三名義の貸借があるだけであり、右各年に正三が支払った利息金は別添昭和五〇年五月二八日付被告第一四準備書面添付の別表(〈2〉当年中支払欄)記載のとおりであるが、これには翌年分として評価すべき未経過利子(この語の意味は右別表の末尾、金額は同表の〈3〉未経過利子欄各記載のとおり。但し昭和四一年分の未経過利子は五二〇円(一〇日分)、八、五八〇円(三三日分)、二、三四〇円(一八日分)、以上合計一一、四四〇円(六一日分)が正しい。)が含まれているのでこれを除くと同表〈4〉当年分経費欄記載の金額(但し昭和四一年分は小計三八七、〇七二円が正しい。)になることが認められる。これが前記当事者間に争いのない部分に対応するものであることは明らかで、右銀行に対する利子の支払が右以上にある証拠は存在しない。

(2)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一二号証の一によれば原告は訴外沢田トヨから昭和三八年中に金二〇万円を日歩二銭八厘の約束で借り約定どおり利息を支払った、元金は昭和三九年六月一日に三万円、同年九月四日に二万円を返したきり昭和四二年末まではその返済をしていないというのであり帳簿に記載もあり、他に反証もないので右沢田に対する昭和三九年分一万七、七二四円、昭和四〇年分一万五、一二〇円、昭和四一年分一万五、〇〇〇円の利息の支払はこれを容認すべきである。

(3)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一三号証の二によれば原告は訴外仲谷朝五郎から昭和三九年三月四日金一〇万円を借り、その利息として同年三月から昭和四〇年一月まで毎月三、〇〇〇円、同年二月四日右元金返済の時に別に五〇〇円の利息を支払ったというのであり、帳簿に記載もあり他に反証もないので右仲谷に対する右昭和三九年分計三万円、昭和四〇年分計三、五〇〇円の利息の支払を容認すべきである。

(4)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一二号証の一によれば原告は訴外吉田三五郎から昭和三九年一月一日以前に借りた金一五万円の借金に対し日歩二銭八厘の見当で昭和三九年は一万五、一二〇円、昭和四〇年は一万二、〇九六円、昭和四一年は六、〇四八円の利息を支払ったというのであり、帳簿に記載もあり、他に反証もないので右吉田に対する右利息の支払を容認すべきである。

(5)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一二号証の二によれば原告は訴外佐藤悟三郎から昭和三八年八月二四日に借りた金一〇万円に対し毎月翌月分払の方法で昭和四〇年三月まで毎月三、〇〇〇円の利息を支払ったというのであり、帳簿に記載もあり他に反証もないので右佐藤に対して支払われた昭和三九年分の利息(昭和三八年一二月から昭和三九年一一月までに支払われたもの)三万六、〇〇〇円、昭和四〇年分の利息(昭和三九年一二月から昭和四〇年三月までに支払われたもの)一万二、〇〇〇円の支払を容認すべきである。

(6)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一三号証の一によれば原告は訴外原亜知から昭和三九年九月一日に金一〇万円を借りた、その利息として昭和三九年中に四、五〇〇円、昭和四〇年中に三、〇〇〇円の現金のほか六、〇〇〇円相当の峰密一罐を送ったというのであり、他に反証もない。このうち現金の支払を支払利息として容認すべきである。峰密は他から譲られたものを送ったと小野寺証人は述べている。従ってこの分は認められない。なお証人小野寺正三は外に昭和四〇年七月ごろ同人から五〇万円を借りたことがあると述べ、甲第九号証にもこれにそう記載があるが、この分の利息の支払は証拠上明らかでない。

(7)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第一三号証の一によれば原告は訴外斎藤正から昭和三九年七月一五日に金五万円を借り、同年一〇月二日一万円、昭和四〇年五月二六日四万円を、それぞれ返済したが、同日、その利息分として四、四五〇円の現金のほか女物皮靴一足を贈ったというのであるが、右皮靴の贈与は代物弁済というより儀礼的なものと解せられるから、このうち現金の支払のみを支払利子として容認すべきである。

(8)  証人小野寺正三、同大黒幹雄の各証言と前記甲第一三号証の一によれば、原告は訴外大黒幹雄から昭和三九年五月二九日に四万円を借り、その礼として一、〇〇〇円程度の現金又は靴の授受のあったことが認められるが、利息の約定があったことが右各証言の趣旨から明らかであるから、これを支払利子に計算することはしない。なお原告は昭和四一年分として同人に対する金二、〇〇〇円の支払利子を主張するが証拠上確定できない。

(9)  証人小野寺正三の証言とこれによって成立を認める甲第八号証、同第一一号証と証人高橋定の証言によれば原告は昭和三九年中しばしば金融業者である有限会社岩手金融から一〇万円、二〇万円程度の金銭を借用し、これに対する利子を支払っていたのであり、昭和三九年中に支払った利子が合計金九万七、一〇〇円あることが認められる。なお右各証言によれば右の如き取引は昭和四〇年度にも及んでいたように窺われるのであり、弁論の全趣旨から成立を認める甲第九号証の記載も参照し、昭和四〇年中にも同年二月二〇日又は三月一九日ごろに七、〇〇〇円、四月四日または五月三日ごろに七、〇〇〇円、四月二一日ごろに三、五〇〇円、五月三日ごろに七、〇〇〇円、六月一日ごろに三、五〇〇円以上合計二万八、〇〇〇円の支払が認められる。これを除外する理由も特に認められないからこれも計上する。

そうすると控除すべき特別経費は都合次のとおりである。

〈省略〉

なお証人小野寺正三は車両分の減価償却を昭和三九年度においてもなすべきである旨証言するが、原告の明示的に主張しないところであり、証拠上も必ずしも確定し難い。

5  更に昭和四〇年分について一一万二、五〇〇円、同四一年分について一四万二、五〇〇円の専従者控除をなす必要のあること当事者間に争いがない。

6  以上によれば結局原告の総所得金額は昭和三九年分八一万九、四六八円、昭和四〇年分六二万四、七九〇円、昭和四一年分七五万七、八六三円と推計さるべきことになる。

三  そうすると、本件処分はいずれも原告の各係争年度の所得金額の範囲内でなされたことが明らかであるから、結局適法なものということができる。

よって原告の請求は理由がないので棄却し、民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老澤美廣 裁判官 長門栄吉 裁判官 堀滿美)

昭和四四年(行ウ)第七号課税処分取消請求事件

原告 小野寺和歌子

被告 盛岡税務署長

要約調書

第一 当事者の求めた裁判

一 原告

1 被告が、昭和四二年一一月二〇日付で、原告の昭和三九年分所得税についてした更正のうち所得税額二、八〇〇円をこえる部分及び過少申告加算税の賦課決定、同四〇年分所得税についてした更正のうち所得税額四、八〇〇円をこえる部分及び過少申告加算税の賦課決定、同四一年分所得税についてした更正のうち所得税額五、四四〇円をこえる部分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二 被告

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決

第二 原告の請求原因

一 本件処分の経緯等

原告は、盛岡市下厨川字四十四田一ノ一四二において靴の販売業を営む者であるが、昭和三九年から同四一年までの各年分所得税について、総所得金額をそれぞれ三五万三、四九〇円、三五万六、九六四円、三四万三、三二三円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和四二年一一月二〇日付で、昭和三九年分から同四一年分までの右各総所得金額をそれぞれ七四万〇、〇〇八円、六〇万六、 七円、七一万一、四四三円とする旨の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定を行った(以下、右各更正を「本件各更正」と、右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」といい、また両者を合わせて「本件各処分」という。)。

二 本件各処分の違法事由

しかし、本件各処分は、以下に述べる理由によって違法である。

1 本件各処分は、専ら原告の所属する民主商工会の破壊ないし弱体化を意図し、憲法二一条の保障する結社の自由を侵害するものであるから、違法である。すなわち

(一) 原告の所属する民主商工会(以下「民商」ともいう。)は、第二次大戦後の混乱した経済状態のなかで、高物価、重税に苦しむ零細業者の生活と権利とを守るために組織されたもので、事業税の減免運動、控除制度の要求運動、自家労賃の承認を求める運動、大企業への免税の撤廃運動などを進めてきた。その間、民商の組織は次第に拡大し、特に昭和三六年ごろから飛躍的な発展を遂げたが、昭和三八年に至り、国税庁は、民主商工会会員の急増と政府の税対策の矛盾の拡大を恐れて、同年五月同会会員に対する税務調査を徹底すべき旨の通達を発し、木村国税庁長官は、民商を三年間でつぶす旨発言した。これに伴い、被告も昭和四三年から、盛岡民主商工会会員に対し、予告もせずに、あるいは係官二人一組で行う臨店調査や納税者の同意のない反面調査を実施するなど、従来なかった強引な調査を行うようになった。

(二) このような背景のもとで、被告は、盛岡民商会員である原告を特に調査の対象として選定し、これに対し税務調査を行い、本件各処分に及んだものであって、右は、まさに盛岡民主商工会の破壊ないし弱体化を意図して行なわれたことは明らかである。

2 質問検査権の行使は、その必要がある場合に限られ、その必要とする理由は、事前に相手方に知れるべきことは勿論のこと、右行使の日時、場所、方法及び態様等も税務職員の裁量に委ねられるべきではなく、相手方の意向が十分尊重されねばならない。ところが、本件では、その具体的必要性はなかったうえ、原告に事前の告知もされておらず、日時、場所、方法等についても原告の意向は全く考慮されなかった。また、税務調査は、納税者の申告の誤りを疑わせる客観的理由がある場合に限られるのに、本件では、そのような客観的理由は存在しなかったのであり、いずれにしても本件質問検査権の行使は違法であり、したがってこの違法な調査を前提とする本件各更正もまた違法である。

3 原告の本件係争各年分の総所得金額は、前記各確定申告額のとおりであって、本件各更正のうち右各金額をこえる部分は、いずれも被告の過大認定であって、違法である。

三 よって、本件各更正(ただし、昭和三九年分については、原告の確定申告に係る所得税額二、 〇円をこえる部分、同四〇年分については、所得税額四、八〇〇円をこえる部分、同四一年分については、所得税額五、四四〇円をこえる部分)及び本件各決定の取消しを求める。

第三 請求の原因に対する被告の認否及び主張

一 請求の原因に対する認否

請求原因一の事実は認め、同二の事実はすべて争う。

二 被告の主張

1 被告が原告を調査対象として選定したのは、原告の昭和四一年分の確定申告書に記載された所得金額が、他の類似同業者の所得金額に比して著しく過少であると認められたことから、右申告の適否を判断する必要があったためであって、右調査は、原告が盛岡民主商工会の会員であることとは全く関係がない。

また、税務職員は、質問検査権の行使にあたって、納税者に対し調査の具体的理由を開示する法的義務を負うものではないし、質問検査権の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、権限ある税務職員の裁量に委ねられていると解すべきである。

2 課税の根拠

原告の昭和三九年から同四一年までの各年分の総所得金額は、それぞれ一〇一万九、九一二円、七〇万二、九五六円、七七万八、九一一円であるから、いずれもその範囲内でなされた被告の本件各更正に違法はない。

(一) 被告の職員らは、原告の靴店経営による昭和四一年分の事業所得を調査すべく、次のとおり二回にわたり原告方に臨店したが、原告側は、所得計算に必要な帳簿書類を何ら提示しないばかりか、質問等にも全く応じようとしなかった。

すなわち、被告の職員等は、昭和四二年六月一三日午前一〇時三〇分ごろ、原告方に臨店し、応待に出た原告の夫訴外小野寺正三に対し、原告の昭和四一年分所得税調査のため訪れた旨、及び原告の申告所得が、同業者との比較などからみて過少と認められることが、その調査の理由である旨を告げたところ、右訴外人は、「一〇時から税務署長に会うことになっている。時間がないから帰れ。」と答えて調査を拒否し、翌日の都合をたずねられるや、「明日にならなければわからない。申告と同時に納税義務を果しているから、調査を受ける理由がない。帰れと言っても帰らないなら警察を呼ぶぞ」などと発言するので、午前一〇時四〇分ごろ、同日の調査を打ち切った。

次いで、右職員らは、同月一六日午前一一時二〇分ごろ、再び原告方に臨店したところ、応待に出た前記訴外人は右職員らを店内に入れず、「抽象的な理由で調査するなど、もってのほかである。」「売上過少の根拠を示せ。」などと発言するのみで全く調査に応ずる気配がなく、ついには大声をあげるに至ったので、午前一一時五〇分ごろ、同日の調査を打ち切った。

以上の次第で、被告は、前記訴外人との応答経過からみて、同訴外人はもとより原告自身も、被告の調査に応ずる意思はないものと判断し、やむを得ず取引先を反面調査するなどにより原告の所得を検討したところ、調査の関連上昭和三九年分及び同四〇年分についても過少申告の事実が判明した。しかしながら、調査に対する原告側の前記態度を考えると、原告の昭和三九年分及び同四〇年分の各所得金額についても、これを原告の帳簿書類に基づき実額によって算出することはとうてい不可能と認められた。

そこで、被告はやむなく、原告の本件係争各年分の所得金額を次のとおりいずれも推計により算定せざるを得なかった。

(二) すなわち、被告はやむなく、次に説明するとおり、原告と類似する同業者を選定し、原告の仕入先を反面調査して把握した仕入金額(売上原価)を右同業者の販売形態別の平均原価率で除して原告の売上金額を算出し、更に右売上金額を基礎とし、同業者の平均算出所得率を使用して原告の各年分所得金額を算定したものである。

なお、原告は、国鉄東北本線厨川駅前の国道四号線に面する商業地区に店舗を有し、ゴム靴及びゴム、ビニール製品を主体とした商品の卸売・中卸売・店舗小売・外売小売を営む者で(業種としてみれば「靴販売」である。)、事業従事員は原告本人及び夫の二名であるが、原告と同一立地条件で、同一兼業割合により同一商品を販売する同業者を選定することは不可能であるうえ、元来原告と取扱商品を同じくする青色申告者が少なく、昭和三九年分及び同四〇年分については、被告管内の類似同業者に関する資料を収集することができなかった。その結果、本件において被告が係争各年ごとに比準者として選定した同業者は、次表に示すとおり、被告管内及びこれと積雪に関する気象条件の類似する税務署管内の商業地区、住宅地区、商業住宅併用地区に店舗を有し、ゴム靴及びゴム・ビニール製品主体の卸売・小売を専業とする右各年分の青色申告者である。

〈省略〉

(1) 販売原価総額(仕入金額)及び販売形態別対応原価

原告の仕入先を反面調査したところ、係争各年分の仕入金額を把握したが、各年分の期首及び期末のたな卸高が明らかでないので、たな卸に変動がないものと推定し、右各年分の仕入金額をもって販売原価総額とした。右各数値を各年ごとに示せば次のとおりである。

昭和三九年 五三六万二、一七三円

同 四〇年 六三八万七、〇三六円

同 四一年 八九一万八、六八〇円

ところで、原告の営業状態は、店頭小売・外売小売(商品を持ち歩いて小売をする販売形態をいう。)・卸売・中卸売(店頭において、行商人、同業者等いわゆる「仲間業者」に値引をしてバラ売をする販売形態である。)の販売形態をとり、小売、中卸売及び卸売別の売上原価が明らかでないので、次に述べる(a)ないし(c)の計算順序により、販売原価の総額を各販売形態別に算出区分した。

(a) 店頭小売金額の計算

別表(二)のとおり、係争各年ごとに、小売を専業とする前記各同業者の従事員一人当り売上金額の合計額を業者数で除してその平均額を算出し、当該金額に原告の従事員数一・五人(原告本人一人、夫〇・五人)を乗じて原告の各年分の店頭小売金額を算出した。右各数値を各年ごとに示せば次表のとおりである。

〈省略〉

(b) 店頭小売金額対応原価の計算

別表(一)のとおり、小売を専業とする前記同業者(昭和三九年分は番号14ないし17、同四〇年分は番号18ないし21、同四一年分は番号22ないし26)の各年ごとの売上金額で差益金額を除した平均差益率は、それぞれ二五・六八パーセント、二二・九三パーセント、二一・九九パーセントであるから、右数値より各年ごとの平均原価率(100-平均差益率)を算出し、これをそれぞれ(a)で求めた原告の前記各年分の店頭小売金額に乗じて各年分の店頭小売金額対応原価を算出した。右各数値を各年ごとに示せば次表のとおりである。

〈省略〉

(c) 外売小売・中卸売・卸売の各対応原価

外売小売、中卸売及び卸売に対応する原価については、各年分の販売原価総額から(b)で求めた店頭小売金額対応原価を差引いた残額について、それぞれ同一割合で構成されているものと推定し、別紙計算表(1)のとおり算出した。

(d) 以上にもとづき、販売原価総額及び販売形態別対応原価の各数値を各年ごとに示せば次表のとおである。

〈省略〉

(2) 売上金額

(a) 小売による売上金額

前記(1)(b)記載のとおり、小売を専業とする前記同業者の各年ごとの平均差益率から各年ごとの平均原価率を算出したうえ、これでそれぞれ原告の前記各年分の小売金額対応原価を除して算出したものである。

(b) 卸売による売上金額

別表(一)のとおり、卸売を専業とする前記同業者(昭和三九年分は番号1ないし4、同四〇年分は番号5ないし9、同四一年分は10ないし13)の各年ごとの売上金額で差益金額を除した平均差益率は、それぞれ一三・二二パーセント、一三・六〇パーセント、一三・二八パーセントであるから、右数値より各年ごとの平均原価率(100-平均差益率)を算出したうえ、これでそれぞれ原告の前記各年分の卸売金額対応原価を除して算出したものである。

(c) 中卸売による売上金額

前記(1)(b)記載の小売平均差益率を基礎として各年ごとの中卸売平均差益率を算出すると、別紙計算表(2)のとおり、それぞれ一八・一一パーセント、一五・六三パーセント、一四・七九パーセントであるから、右数値より各年ごとの中卸売平均原価率(100-平均差益率)を算出したうえ、これでそれぞれ原告の前記各年分の中卸売上金額対応原価を除して算出したものである。

(d) 以上により、右各数値を各年ごとに示せば次表のとおりである。

〈省略〉

(3) 算出所得金額

(a) 小売による算出所得金額

別表(一)のとおり、前記各同業者(昭和三九年分は番号14ないし17、同四〇年分は番号18ないし21、同四一年分は番号22ないし26)の各年ごとの売上金額で算出所得金額を除した平均算出所得率は、それぞれ二〇・一〇パーセント、一七・四七パーセント、一六・〇七パーセントであるから、これをそれぞれ原告の前記各年分の小売による売上金額に乗じて算出したものである。

(b) 卸売による算出所得金額

別表(一)のとおり、前記各同業者(昭和三九年分は番号1ないし4、同四〇年分は番号5ないし9、同四一年分は番号10ないし13)の各年ごとの売上金額で算出所得金額を除した平均算出所得率は、それぞれ九・一四パーセント、九・一〇パーセント、八・九一パーセントであるから、これをそれぞれ原告の前記各年分の卸売による売上金額に乗じて算出したものである。

(c) 中卸売による算出所得金額

前記(2)(c)記載の中卸売平均差益率を基礎として各年ごとの中卸売平均算出所得率を算出すると、別紙計算表(3)のとおり、それぞれ一四・〇三パーセント、一一・一三パーセント、一〇・四二パーセントであるから、これをそれぞれ原告の前記各年分の中卸売による売上金額に乗じて算出したものである。

(d) 以上により、右各数値を各年ごとに示せば次表のとおりである。

〈省略〉

(4) 特別経費

(a) 減価償却費

建物(昭和三〇年に取得)および車両(昭和四〇年四月一四日登録、登録番号四な二八―〇九、パブリカバン)について、所得税法の定めるところ(昭和三九年分については旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法をいう)第一〇条の三、昭和四〇年分および昭和四一年分については所得税法第四九条)により定額法で別紙計算表(4)のとおり、各年分の減価償却費を算出したものである。

なお、建物については、その取得価額が明らかでないので、盛岡市役所の家屋名寄帳および木造家屋調査票兼課税(補充)台帳で原告の建物の取得年月、構造および面積を調査し、この面積に、盛岡税務署管内の原告と同年次に建築された同種建物の三・三平方米当り平均建築価額二万円を乗じた金額を原告の建物の取得価額と推定し、また、家屋延面積一〇〇・八二平方米に対する店舗占有面積割合を七〇パーセントと推定した。

右各数値を各年ごとに示せば、次表のとおりである。

以上によれば、原告の本件係争各年分の事業所得金額は次のとおりである。

昭和三九年 一〇一万九、九一二円

同 四〇年 七〇万二、九五六円

同 四一年 七七万八、九一一円

第四 被告の課税根拠の主張に対する原告の認否及び反論

一 被告の主張に対する認否

被告主張第三2(一)の事実のうち、被告の職員らが二度原告方に臨店したこと、その際原告の夫が右職員らに対し、被告の主張するような発言をしたこと、二度目の臨店の際、原告の夫が右職員らを店内に入れなかったことは認めるが、その余の事実は争う。

被告主張2の(二)の事実のうち、原告が被告主張の立地条件及び営業規模でゴム靴及びゴム、ビニール製品を主体とした商品の小売をしていること、(1)の販売原価総額、(4)(a)の金額及び(5)の金額は認めるが、その余の事実は争う。

二 被告の主張に対する原告の反論

1 原告の本件係争各年分の借入金利子を示せば次表のとおりである。

〈省略〉

〈省略〉

(b) 借入金利子

本件係争各年分の借入金利子を示せば次表のとおりである

〈省略〉

(5) 専従者控除

本件係争各年分の専従者控除額は次のとおりである。

昭和四〇年 一一万二、五〇〇円

同 四一年 一四万二、五〇〇円

なお、昭和三九年分については、原告の提出した昭和三九年分所得税確定申告書に記載がないので旧所得税法二八条により控除しないものである。

(6) 差引事業所得金額

〈省略〉

2(一) 申告納税制度のもとでは、更正・決定による課税自体例外であるうえ、実額課税が原則であるから、推計による課税は、あくまでも例外として厳格に制限されなければならない。したがって、推計による更正は、更正しなければ課税上の遺漏をもたらす合理的な理由があり、推計以外に納税者の所得を把握し得ない合理的事情が存する場合に限られるべきところ、本件質問検査権の行使が違法であることは前記第二の二2記載のとおりで、違法調査に対してはこれを拒否することができるのであるから、被告が原告側の応答態度を把えて、これを調査拒否とみなし、実額に基づく所得金額の算出は不可能としてこれを推計したのは右合理的事情を欠くものと言わざるをえない。

(二) 仮に、本件について同業者率による推計が許されるとしても、被告主張の推計方法は、次のとおり合理性を欠くものである。

すなわち、原告は、前記第四の二1記載のとおり、金融業者である有限会社岩手金融商事外多数の者から高利の金員を借りないと営業を行えない状況にあった。かかる者についても平均的な同業者を基準にして所得を推計することは推計方法の合理性を欠き許されない。

計算表(1)

外売小売・中卸売および卸売の対応原価の計算

(算式)

(売上原価総額-店頭小売対応原価)÷3

昭和三九年分(五、三六二、一七三円-二、〇〇八、九〇九円)÷3

昭和四〇年分(六、三八七、〇三六円-二、三七三、四七三円)÷3

昭和四一年分(八、九一八、六八〇円-二、六二三、五一九円)÷3

計算表(2)

中卸売の差益率については、右の小売差益率から値引率(差益率の一〇%の率)および販売口銭として五%を差引いたものである。

〈省略〉

計算表(3)

中卸売の算出所得率は、中卸売が卸売形態を有し、一般経費の点では卸売と差がないと認められるので別紙計算表(3)により計算した差益率から卸売の一般経費率を控除した率によったものであり、その計算方法は次のとおりである。

〈省略〉

(注) 卸売分の一般経費率は、卸売分差益率-卸売分算出所得率=一般経費率として求められる。

計算表(4)

〈省略〉

〈省略〉

(注) 耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令第一五号(昭和三九年前は昭和二六年大蔵省令第五〇号))別表一によるものである。

なお、番号1の建物の耐用年数二四年は昭和四一年大蔵省令第三七号改正によるものである。

別表(一) 同業者の差益率および算出所得率調

〈省略〉

別表(二) 同業者の従事員の従業状況および従事人員一人当たり売上金額の表

〈省略〉

(注) 本表の番号は別表(一)の番号に符合するものである。

昭和四四年(行ウ)第七号 課税処分取消事件

原告 小野寺和歌子

被告 盛岡税務署長

昭和五〇年五月二八日

被告指定代理人 相川俊明

久下幸男

黒沢幸造

桑原啓

鈴木貞冏

佐々木範三

盛岡地方裁判所第二民事部 御中

第一四準備書面

一 北日本相互銀行材木町支店に対する支払利子について

(一) 昭和四九年三月二六日付被告の第一三準備書面の四の(五)の2の借入金利子の明細のうち、昭和三九、四〇、四一年分の支払利子額を別表に示す内訳のとおり訂正して主張する。

(二) 原告主張の昭和三九、四〇、四一年分(以下「各年分」という。)の支払利子額中右(一)で示した以外には借入れの事実がなく、したがって、これを超過して主張している部分については否認する。

その内容を示せば次のとおりである。

〈省略〉

二 その他の各年分の支払利子額について

(一) 徳陽相互銀行盛岡支店(昭和三九・四〇年分)に係る支払利子額については、原告の主張を認める。

(二) 右二の(一)以外の金融商事(昭和三九年分)及び各年分の個人からの借入れに対する支払利子額については、被告の昭和五〇年三月二〇日付求釈明申立について、原告の主張をまって次回以降に主張する。

別表 各年分の北日本相互銀行材木町支店からの借入金支払利子内訳

昭和三九年分

〈省略〉

昭和四〇年分

〈省略〉

昭和四一年分

〈省略〉

(注) 「未経過利子」とは、期間が経過しない分に対する支払利子で、前払費用に該当するものをいう。

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